昭和28年10月、政府が出資する特殊法人として設立された
日本航空が、我が国最初の航空会社となり、国内線、国際線の運航を独占的に行っていた。その後、
全日本空輸(全日空)などと事業分野を分担する体制が取られ、日本航空も民営化される。規制緩和が進んだのはバブル崩壊後で、平成7年以降、国内運賃の設定が認可制から届出制へと移行される流れがあり、平成12年の航空法改正によって新規参入が容易となったことで、特定路線における格安運賃での運航を売り物とした航空会社が現れるようになる。
国土交通省が発表した「平成16年度航空輸送統計速報」によると、年間の定期航空輸送旅客数は国内線が約9374万人(前年度比98.2%)と、15年度から2年連続で減少したが、国際線は前年度のイラク情勢などの影響による旅客の激減から回復し、7%増の約1827万人となった。国内線で最も旅客数が多いのは東京−札幌間の約911万人で、国際線では中国(香港)方面が約296万人と他路線を大きく引き離している。
規制緩和によって参入企業が増え、国内市場においても過当競争が本格化しているが、需要が大きく伸びる要素に欠ける上に、原油価格の高騰による燃料コストの膨大もあって業界としては苦しい経営が進んでいる。国際線においても消費低迷の影響によって、海外の航空会社を利用する割合が若年層を中心に増えている。
現状においても進んでいる不採算路線からの撤退がさらに加速することも考えられ、利用客の低コスト意識に対応する経営体制の見直しは急務といえる。さらには部品トラブルなどの事故や社内不祥事についても企業イメージを大きく下げる要因となるため、利用客からの信頼を維持し続けられる高い安全意識と健全な経営環境も望まれるところだ。
国際線は米同時多発テロ以降の需要減退から一時は回復の兆しを見せたものの、原油価格高騰の影響は依然として大きく、値上げならびに路線の見直しに向けた動きが続いている。「燃油特別付加運賃」という名目による引き上げは以前にも行われており、燃料費を筆頭に膨らみ続けるコストをカバーできるだけの運賃改定が今後さらに繰り返される可能性も高い。既存路線の整備や人的コストの削減などといった対策で利益確保に励む各社だが、資源や海外事情を相手とした問題であるために事態が長期化すれば、より抜本的な合理化を迫られる場面もそう遠くない状況にあるようだ。
唯一の国産旅客機であった「YS-11」の引退によって、日本の航空会社が使用している旅客機は現在、その全てが海外からの輸入機となっている。全般に安全性は向上しているとはいえ、1つの事故が多大な損害や信頼の失墜を招きかねない責任の重さがあるだけに、事故のない運航を第一に考えた慎重な経営が求められるべき業界といえる。同一メーカーの機体によるトラブルの続発が報じられているが、トラブルの可能性が分かっていながらもその性能や利便性を優先して使用を続けなければならない点が、融通の利かない現在の航空事情を物語っているようにも感じる。常に大きなコストが求められる中で収益の減少が与えるダメージも大きく、厳しい環境の中、運航体制の維持が重大な事故を招く危険性を認識した上での経営改善が一刻も早く急がれる状況だ。
《業界情報サイト》
全日本空輸(株) 【東証1部】(http://www.ana.co.jp/)
(株)日本航空 【東証1部】(http://www.jal.co.jp/)
◆◆ 航空法 ◆◆
昭和27年7月制定。航空機の安全および航行に起因する障害の防止を図るための方法を定め、並びに航空機を運航して営む事業の適正かつ合理的な運営を確保して利用者の利便増進を図ることによって航空の発達を図り、公共福祉を増進することを目的とする。
◆◆ 国際民間航空条約(シカゴ条約) ◆◆
国際民間航空を能率的かつ秩序あるものにすることに定められた条約。1944年11月、アメリカのシカゴで開催された国際会議で採択されたことから「シカゴ条約」とも呼ばれている。
◆◆ インカンバントキャリア ◆◆
日米の航空交渉上において、両国の路線バランスを保つ為に選定した航空会社のこと。新路線の開設や増便が交渉なしで行える。日本は
日本航空、
全日本空輸、
日本貨物航空が指定されている。
◆◆ 有償旅客キロ ◆◆
輸送した旅客数に運行距離を乗じたもので、各航空会社の需要を見る目安ともなる。100人の旅客を500km運べば、5万旅客キロとなる。
◆◆ イールド ◆◆
有償旅客キロあたりの営業収入単価。