カイロプラクティック(Chiropractic)は脊椎を中心とする身体の構造と神経系の機能に注目したヘルスケア(保健医療)である。1895年にアメリカでDDパーマーという人物によって創始され、身体の構造と機能の関係が健康に影響を与えるという理論に基づく。「カイロプラクティック」という言葉は、ギリシャ語の「カイロ(手)」と「プラクティコス(治療)」からなる造語。日本独自の療法である「整体」と混合されることがあるが、統一された定義や教育基準をもたない整体とは異なる。施術者はカイロプラクター(Chiropractor)と呼ばれる。
アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリス、フランス、スイスなど世界約40か国以上で代替医療や保健医療の分野で国家資格(州資格)になっている。カイロプラクティックの治療法は、薬物や外科を用いずに脊椎やその他の身体部位の異常個所を調整することにより、痛みの軽減や機能改善といった身体の自然治癒力を高めることを目的としている。手順としては、病歴を取り、姿勢分析などの各種検査を行い、身体のゆがみを総合的に判断して手技や器具による脊椎の調整を行う。また同時に体操、栄養、睡眠などの生活指導を組み合わせる。
カイロプラクティックが国家資格として法制化されている国々は、世界保健機関(WHO)のガイドラインによる教育および資格の基準を満たしている。それらの国々では、世界4つの地域にあるカイロプラクティック教育評議会(CCE)の正式な認可を受けた教育機関でカイロプラクティック専門教育を履修し、卒業後に国家資格試験(州試験)に合格してカイロプラクター免許を取得する。一方、日本では法律によってカイロプラクティック業務が規制されていない為、教育の有無にかかわらず自由にカイロプラクティック業務が行われている。多くが短期教育であり、WHOガイドラインの教育基準を満たした国際認可校は1995年に創立された東京カレッジ・オブ・カイロプラクティック(旧RMIT大学日本校)のみである。WHOガイドラインでは正規な教育は4年間4,200時間以上の専門大学教育と定め、医師や歯科医師など医療従事者も2〜3年間2,200時間以上の教育が要求されている。
業界内の資格制度確立のため、2008年に設立された日本カイロプラクティック登録機構(JCR)は、利用者の安全性を確保する目的でWHOガイドラインの教育・資格基準を満たした施術者の登録制度を正式に開始した。年一回、JCR登録試験がIBCE(国際カイロプラクティック試験委員会)の協力のもと行われている。JCR登録者の名簿は定期的に厚生労働省へ提出されている。今後はカイロプラクターを国家資格として法整備していくことが必要である。
カイロプラクティックについては業界団体が複数あるが、WHO基準の教育および資格基準を満たした施術者から成る団体は、日本代表団体の日本カイロプラクターズ協会(JAC)ただ一つである。日本カイロプラクターズ協会はWHOのNGO(非政府組織)に加盟しているWFC(世界カイロプラクティック連合)日本代表団体としてWHO基準のカイロプラクティックを普及する活動を行っている。
正規なカイロプラクターになるには、各地域のCCE認可の教育機関(日本の場合、東京カレッジ・オブ・カイロプラクティック)を卒業した後、JCR試験に合格し登録することが要求される。治療院や病院に就職し、数年の経験を積んだ後、自分の治療院を開業するのが一般的である。その他、大学院に進学して博士課程を取得したのち研究職や大学の講師に進む人もいる。